海沿いのまちを、自転車に乗った“先生”が青いスカートを翻して駆け抜ける。今夏、放映されていた飲料水のCMを見たことはありますか? あのCMのロケ地は御手洗(みたらい)というまち。広島県呉市と愛媛県今治市の間、瀬戸内海に浮かぶ大崎下島(おおさきしもじま)の港町です。
江戸時代、風待ち・潮待ちの港として栄えた御手洗は、昭和に入ってからも長らくは海運の要所でした。ところが、戦後、新幹線や高速道路が整備されると、とうとう船の時代も幕引きに。若い人は都会に出て行き、年老いた店主たちは店を閉め、江戸時代の家も残る古い町並みは眠りについたように静かになりました。
映画やCMのロケ地に選ばれるたび、その風景をひと目見たいと思う人たちがたくさんやってくるのですが、みんなただ御手洗を通り過ぎていくだけ……。なぜなら、足を休めてゆっくりできる喫茶店やカフェ、世界中に自慢してもいい特産品やおみやげを買える場所が少なかったからです。
「じゃあ、カフェをつくってみよう」と立ち上がったのが、合同会社よーそろ・代表の井上明さん。この4年間のうちに、まちの人の信頼を得ながら、空き家を活用した店舗を4軒もオープン。仕事をつくっては新たな移住者を受け入れ、定住に至るまでのフォローもするという活躍ぶりです。
井上さんというチェンジメーカーを、御手洗地区の人たちはどんな風に受け入れたのでしょうか。そして、井上さんは御手洗地区に、どんな夢を描いているのでしょうか。潮風が心地よい古い船宿の二階で、目を輝かせて語ってくれるお話をじっくり聞かせていただきました。 (さらに…)